一万打企画「祝福のダリア」の脇道妄想です。
日本語おかしいのはご愛敬。
なんだそんなもん屁でもねぇ! という方はどうぞ。
まだ未来救が「自分は救世主である」としか知らされていなかった頃のこと。
幼馴染と二人きり、初めて城下のお祭りに出掛けました。
見聞きすること全てが珍しく、幼馴染の忠告になど耳を貸そうともしません。
人波に呑まれ揉まれる中で繋いでいたはずの手も解けてしまいます。
空っぽの右手に目を落とし、あれ、と赤い目を丸くして。
慌てて周囲に目を凝らしても見慣れた姿は見付かりません。
目に映るのは見知らぬ大人のぐちゃぐちゃとした流ればかり。
さっきまできらきらしていた街が未来救にはとても恐ろしく感じられました。
弾かれるように駆け出した矢先、何かにぶつかりべちゃっと転びます。
小さな悲鳴に顔を上げると視界を埋め尽くす花また花。
それらがほとほとと落ちてから、同じように尻餅をついた女の子の存在に気付きます。
未来救が口を開くより先に、だいじょうぶ? と掛けられる声。
痛いところは? 怪我してない? と矢継ぎ早に問いを投げられ、ただ頷くしかありません。
ごめんね、と差し出された手を取って、女の子に助け起こしてもらう救。
並んで立ってはっとします。同い年くらいなのに、その子の方が背が高いのです。
ちょっとだけ悔しく思いながらも、ごめんね、と呟く未来救。
女の子は落ちた花を拾いながら、気にしてないわと微笑みました。
慌てて未来救もしゃがみ込み、零れた花を集めます。
女の子は大きな目を丸くして、ありがとう、とまた微笑むのでした。
全ての花を拾い終えて、女の子は首を傾げます。
ひとりなの? もしかして迷子? と。
迷子だと認めてしまうのが何だか恥ずかしいような気がして、思わず俯く未来救。
けれど全てを悟ったかのように女の子は救の手を取ります。
一緒に探してあげるわ、と言って。
少々強引な子ではありましたが、決して嫌ではありませんでした。
女の子は街のことをよく知っておりましたし、人波の歩き方もとても上手だったからです。
さっきまで恐ろしいものだった街が、再び輝きを取り戻しました。
迷子になっていたことなど忘れ、女の子と二人でお祭りを楽しむのでした。
「月白!」と名を呼ぶ声を聞き、未来救の足が止まりました。
通りの奥から人を掻き分け駆けて来る幼馴染の姿を見、ほっと胸を撫で下ろす救。
それを見た女の子は手を解き、救の髪に花を挿して、またね、と微笑み別れを告げます。
その姿が人波に呑まれる間際、また会える!? と問いを投げる救。
女の子は一旦足を止め、お祭りの日にね、と返しました。
幼馴染が追い付いても救の目は女の子を見送ったまま。
知り合いか、と訊かれて初めて、名前を聞いていないと気付きます。
次に会ったら名前を聞こう。そう思いながら帰路に就くのでした。
その後も何度か街に出ましたが女の子の姿はありません。
それどころか二人で歩いた道すらもうまく思い出すことが出来ませんでした。
そうこうしている内に月日は流れ、再びお祭りの日がやってきます。
その年もまた幼馴染と共に城下へ繰り出した未来救。
きょろきょろと辺りを見回す姿に幼馴染は呆れ顔。
少しは落ち着けと言われても、生返事しか返せません。
ぐるりと街を一巡りし終えた頃、しょんぼりと肩を落とす未来救の耳に懐かしい声が届きました。
今日は迷子じゃないのね、と。
弾かれるように振り返った救の目に映るのは、記憶に残る姿よりも幾分か大人びた花売りの女の子だったのです。
今日も腕には花籠を提げ、にこにこと微笑んでおりました。
幼馴染は訳が解らず、どういうことだと目で問い掛けます。
けれども未来救はそれどころではないので、そんな視線には気付きません。
女の子と一緒に花を売りながら、懐かしさに会話を弾ませます。
(もちろん幼馴染も手伝いました。うっかり目を離してまた迷子にでもなられたら困りますから)
祭の終わる夕暮れに、またね、と再び別れの言葉。
最後に花を一抱え買い、二人は城へと戻るのでした。
城へ帰った未来救はその足で白梟の元へ向かいます。
女の子から買った花束を手渡し、その日あった出来事の話をするために。
微笑みながら救の話を聞く白梟。
その表情が僅かに曇ったことに未来救は気付きません。
ただ嬉しそうに、幸せそうに、にこにこと語るばかりでした。
それからも数年の時が過ぎ、未来救が淡い恋心を自覚し始めた頃のこと。
数日後に控えた再会の日の為、彼は髪飾りを買い求めました。
彼女への贈物にと考えたのです。
この時ばかりは幼馴染も同行しようとはしませんでした。
毎年毎年のことでしたから、未来救の恋心にも薄々気付いていたのでしょう。
複雑な想いを抱えながらも幼馴染の恋を見守ることにしたのです。
待ちに待った祭の日、毎年彼女と会うその場所で、未来救は待ち続けました。
贈物の髪飾りを手に、どこかそわそわと落ち着きなく。
けれども彼女は来ませんでした。
風邪でもひいてしまったのだろうかと未来救は考えました。
それ以外に思い当たることがなかったからです。
次はいつ会えるだろう、喜んでくれるだろうかと、そんなことを考えながら手の中の贈り物に目を落とします。
しかし翌日、彼女は変わり果てた姿で発見されたのです。
未来救が待っていた場所から然程離れていない暗く冷たい水路に浮かんで。
半ば放心状態で城に帰った救を待っていたのは静かに微笑む白梟。
話がありますと彼を呼び、玄冬が生まれたことを告げました。
同時に救世主の負う義務のこと、幼馴染の役割のことを淡々と彼に伝えたのです。
全てのことを話し終え、白梟はこう続けました。
友人が亡くなったそうですね、と。
その一言を聞いて初めて彼は朧気ながらも悟りました。
直接手を下してはいないにしろ、白梟が彼女を殺させたのだと。
幼馴染の負った役目は救世主の血脈を絶やさないこと。
それに対して自分の役目は幼馴染の家以外に救世主の血を残さないこと。
知らなかったこととは言え、自分が掟を侵し掛けたせいで彼女は殺されてしまった。
もちろん白梟に対しての怒りを覚えなかったわけではありません。
しかしそれよりも強く激しく彼は自分を責めるのでした。
自分が好きにならなければ、白梟に話さなければ、彼女は殺されずにすんだのに、と。
そして迎えた幼馴染の結婚式。
煌びやかな宴の席を辞し、自室に戻って溜息ひとつ。
着替えもせぬまま寝台に寝転び、ゆるりと両の目を伏せます。
瞼の裏に描かれるのは見慣れぬ服を着た幼馴染とはにかみ微笑む花嫁の姿。
じわりと滲んだ感情のままに、救はそっと涙を流すのでした。
と、こんなカンジの脇道でした。
語り足りない部分は、ない、はず。
ぐだぐだになってしまってすみません……!
でも楽しかったー!